品種の目標や基準を決める
採種に適した良い株を選ぶには、どう育てるかが重要です。畑の養分が良すぎたり悪すぎたりすれば、株の特徴が現れにくいため母本を選びにくくなります。生育が全般的に悪い時に、非常によくできた株がありそこから採種すると、実はそれが交雑した株で、品種そのものがダメになる場合があります。また、味を重視する果菜類では、一度味の悪い株から採種すると元の味に戻すことは非常に困難となります。
栽培方法や母本の選び方によって次の世代の性質が決まってしまうので、まず品種をどう維持していくのか、方向性や目標、基準を決めることが大切です。例えば、実が割れにくい、味がよい、株が疲れにくい、収量が多い、生育がよい、病気に強いなどです。その特性を実際に確認するためには、現在育てている株と比較する品種があると便利です。早晩性や収穫時期、果実の大きさや根の長さなどは、栽培条件や気候条件によって変わってしまうため、対象品種と比べることで品質の良し悪しが判断できます。比較対象の品種は、周りの人が育てているような定番もの、または、前の世代の種にするとよいでしょう。
自家採種の育種方法と選抜方法
採種農家ではない家庭菜園の自家採種とはいえ、その品種を維持するために目的に合った育種方法をとることは重要です。育種の方法を知ることで、その品種を自家採種するのに必要な栽培方法や維持について適切に行うことができます。自家採種では主に固定種を維持・育成することになるので、それぞれの作物の生殖様式に合わせた選抜を行います。育種学では専門的な方法が細かく規定されているようですが、あまり難しいことは分からないので、自家採種で知っておくと便利な方法のみ紹介します。
自家採種の素材になる在来種や固定種は、ある程度固定されているとはいえ、自然交雑や他品種の混入によって数多くの雑多な形質が混在してる集団がほとんどです。こうした集団の中から、望ましい個体を選んで採種し、優良な系統を選ぶには分離育種法が適しています。
分離育種法
栽培されている農作物は、多少なりとも性質の異なる雑多な素材の集団を形成しています。このような集団の中から、優良な個体を選抜して育成する方法です。要は、良い個体を選んで採種し続ければ、その子孫もよい個体になるはず、という目論見です。長い世代を経ればその通りなのですが、1世代では目に見えるほどの効果は得られません。種は多くの遺伝情報を持っているため、それらが発現すれば、期待していた親とは異なる性質を持つ個体が少なからず出てきます。さらにこの中から優良個体から選抜して採種すると、期待する性質を持つ個体の割合が前の世代より増えている。これを何世代も繰り返すと、ほぼ全ての個体が期待する性質を持つようになります。これが自分が望む性質を選抜し、形質が固定化された新品種になるわけです。
分離育種法は、自家受粉する作物と他家受粉する作物で次の選抜方法に分かれます。
純系選抜法
トマトなど自家受粉する作物(自殖性作物)は、自殖(自家受粉)をある程度重ねると、それ以上自殖を繰り返しても形質が変化しない系統になります。この性質を利用して、混合集団である在来種・固定種の中から、優良なものを選別していきます。
系統選抜法
アブラナ科野菜など他家受粉する作物(他殖性作物)は、人工的に自殖させると生育が悪くなるため、集団の中から選抜された優良な個体の間で交配を行って目的とする性質だけをそろえ、他の性質についてはばらつかせて選抜していきます。
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